クラウド型の診断評価サービス

常に最新鋭の測定環境を

EC SENSINGは早稲田大学逢坂研究室の開発成果である劣化診断/予測技術のみならず、同研究室の蓄電池用材料、電池セル、蓄電システムなどの研究開発成果とノウハウを広く受け継ぐ。これらを生かし、蓄電池用材料の評価、新しい蓄電池の試作や技術コンサルティングなども手掛ける。EC SENSINGが提供する「クラウド型」の蓄電池劣化診断/予測サービス。そのメリットは二つある。一つは測定器を小型かつ低コストにできること。もう一つは、利用し続けることで進化を続けていくことだ。「常に最新鋭の測定機器を利用できる環境」を提供することができる。

 EC SENSINGが提供する蓄電池劣化診断/予測サービスの最大の特徴は「クラウド型サービス」を採用する点にある(図11)。ユーザーに最適な測定用信号の波形、取得した測定信号の評価プログラム、ユーザーに応じた診断結果報告書の作成ツール、標準データや測定データを格納したデータベースなどをクラウド上のサーバーに配置する形式のサービスである。EVや大型蓄電システムなどの蓄電池を測定するための端末(測定器)には、こうした機能は搭載しない。

図11 クラウド型サービス
EC SENSINGでは、過去の測定結果(参照データ)を格 納したデータベースや劣化診断/予測ソフトウエア、診断結果作成ツールをクラウド上の サーバーに配置するサービス形式を採用する。EVや大型蓄電システムなどの電池を測定する測定器には、これらの機能は搭載しない。測定結果は、タ ブレットPCやスマートフォンなどを介してインターネット経由でECSENSINGのサーバーに送られる。その後、そのサーバーでデータ 処理して劣化診断/予測を実行してから、診断結果報告書をタブレットPCやスマートフォンなどに送り返す。

 測定器に必要な役割は、サーバー側から指示された矩形波信号を蓄電池に入力し、その応答信号を検出するだけである。検出したデータは、PCやスマートフォンなどを介してインターネット経由でEC SENSINGのサーバーに送られる。それを受けたサーバーで、そのデータを処理解析して劣化診断/予測を実行、診断結果報告書をユーザーのPCやスマートフォンなどに送り返す。この測定器とPCやスマホがあれば、ユーザーはいつでもどこでも測定ができ、評価結果が取得することができる。この測定器は、EV用充電器などに組み込んでおくことも可能だ。

 クラウド型を採用するメリットは大きく分けて二つある。一つは、測定器の機能を最小限にすることで構造をシンプルにでき、小型かつ低コストにできることだ。一般に、蓄電池の特性を評価する測定器は高価なものが多い。機種や機能などによるが、数百万〜数千万円に達するものもある。高価な理由としては、電圧/電流測定機能や電源機能、通信機能、評価機能、データベース機能などの多くの機能を搭載していることが挙げられる。クラウド型にすることで、この測定器のコストを10万円以下にすることができる。ユーザーが汎用の電源をすでに所持している場合や、充電器などに組み込む場合などには、これを数万円以下にすることも可能だ。

 もう一つのメリットは、利用し続けることで、どんどん進化していくことだ。評価プログラムなどの機能は、当然ながら常に最新のものが利用できる。アップデートなどの必要はない。さらに、自身の測定データを含め、さまざまな測定データはすべてデータベースに蓄積されていくので、AIを利用した評価プログラムは、データ量の増加に応じて評価精度が上がっていく。ユーザーに「常に最新鋭の測定機器を利用できる環境」を提供するのである。

あらゆる蓄電池搭載システムが対象

EV用充電器への組み込みも容易

EC SENSINGの劣化診断/予測サービスの対象は、EVや大型蓄電システムから蓄電池を備えるあらゆる機器やシステム、さらには蓄電池用の測定器、検査装置にまで及ぶ。利用希望者は、ユーザー登録をするだけでよい。その登録内容から電池の詳細情報を特定して最適な条件で測定/診断する。

 EC SENSINGの劣化診断/予測サービスが対象とする蓄電池搭載システムは、EVや大型蓄電システムに限らない。対象となるユーザーは蓄電池を備える多種多様な機器やシステム、設備の全ユーザーから、蓄電池用の測定器、検査装置のユーザーにまで及ぶ。代表例として挙げたEVだけを見ても、電動自動車から電動バス、電動トラック、電動フォークリフト、電動航空機、ドローン、電動船(内航船)、潜水艦など、例を挙げれば枚挙に暇がない(図12)。蓄電システムも同様に、電力蓄電用の大型設備から太陽光発電設備などと組み合わせて利用する蓄電システム、家庭用の小型システムまであり、災害などの停電時に備えて蓄電システムを備えるオフィスビル、病院、集合住宅、公的施設、通信設備などを含めると、現状でも社会のあらゆるところに蓄電池が利用されていることがわかる。

図12 幅広い用途に適用できる
EC SENSINGが提供する蓄電池劣化診断/予測サービスは、EVや大型蓄電システムのほか、電動バスや電動トラック、電動フォークリフト、家庭用蓄電システム、電動航空機、ドローン、空飛ぶクルマ、電動船(内航船)、潜水艦などの用途にも適用できる。

 蓄電池の利用が拡大すれば、蓄電池の劣化診断/予測を可能にする安価なサービスに対するニーズもまた急拡大していく。安価な測定器を入手したいというユーザーも増えていくだろう。前述の通り、EC SENSINGのクラウド型サービスを利用すれば、測定器本体の価格は最小限に抑えられる。測定器メーカーは独自の評価技術や評価プログラムを開発することなく、独自に測定データを蓄積する必要もなく、電圧/電流測定技術や電源機能の高度化といった自社の得意技術を生かした測定器や測定機能内蔵機器を開発することができるようになる。これから出現するであろう測定機能内蔵機器の代表例が、EV用などの充電器だ。最小限の部品追加、場合によってはソフトウエアの書き換えだけで、単なる充電器を劣化評価/予測機能付きの充電器に生まれ変わらせることができる。

 このクラウド型の蓄電池劣化診断/予測サービスの利用形態は、以下のようになるだろう。

 利用者は、例えば、EVユーザーであれば、氏名や居住地域、連絡先などの個人情報のほかに、劣化診断/予測の対象となるEVのメーカーや車種、年式などを登録する。EVに関するこれらの情報が分かれば、それに使われている蓄電池の情報、例えば、製造企業や材料系、ロット番号などを特定できる。EC SENSINGは、この蓄電池の情報に基づいて蓄電池測定に使う矩形波信号の最適な周波数などを測定器に対して送信する。その後、最適な周波数の矩形波信号を使って測定し、その結果として得られた解析評価結果はユーザーに送信する。同時に、測定データや評価データは蓄電池の情報に紐付けてデータベースに格納する。

 大型蓄電システムや家庭用蓄電システムなどでも同様だ。ユーザーは、個人情報のほかに蓄電システムのメーカーや型番、製造年月日などを登録する。これらの登録データを入手できれば、使われている蓄電池を特定できる。その後、特定した蓄電池の測定に最適な矩形波信号を指定して、実際に蓄電池に対して矩形波信号を入力する。そして測定した結果をクラウド上のデータベースに格納するわけだ。

 なおEC SENSINGでは、蓄電池の劣化診断/予測サービスに対応する測定器の開発委託/支援のほか、蓄電システムの開発支援や設計支援といった事業も手掛ける予定である。

パートナー事業会社との協業で領域拡大

サービス形態は協業企業の事業内容で変わる

EC SENSINGは、幅広いサービス対象範囲に対してパートナー企業との協業で事業領域を拡大していく。こうすることで、より多くの測定データが集まり診断サービスの精度は向上、サービス・コストも低下する。サービス価格や評価内容に関しては、パートナーの事業内容に応じてカスタマイズ可能だ。

 EVや大型蓄電システムなど、蓄電池を利用する多種多様な機器やシステム、設備といった広い分野にまたがるサービスは、EC SENSINGが単独で展開できるものではない。そこで私たちは診断サービスの質的向上に注力し、パートナー企業との協業で事業領域を拡大することを目指している。EVなどモビリティ関連のディーラーやメーカー、電力会社などエネルギー関連企業、保険会社、商社、不動産会社、流通業者、蓄電池内蔵システムメーカー、測定器メーカー、蓄電池リユース/リサイクル会社、政府/地方自治体など、さまざまな分野の企業や組織が私たちにとってのパートナー候補である。こうした企業/組織との協業を通じ、分野の垣根を超え、さまざまな状況で使われる多種多様な蓄電池に関するデータを集積する。このデータが集まれば集まるほど、診断サービスの精度は上がる。さらにいえば、適用範囲は広がり、サービス・コストは下がっていくだろう。

 先に挙げたサービス形態も、協業する企業/組織の事業内容に応じて変わり、さまざまなバリエーションが生まれていくはずだ。

 例えば、診断サービスの価格である。私たちはサブスクリプション方式や従量方式の有償サービスとして診断結果を提供する。だが、事業者がそのコストをどう回収するかは、事業者の考えに委ねられる。サービス自体を消費者や企業に販売するというのが、一番シンプルなパターンかもしれない。その場合でも、診断の頻度や詳細度などによってサービス料は、例えば携帯電話のサービスプランのように多種多様なものになるだろう。多くのネットサービスがそうであるように、消費者には無償提供ということもあり得る。あるいは、保険料や保守サービス費の一部として診断サービスのコストを取り込んでしまうこともありそうだ。

 提供する診断結果も、多種多様になるだろう。ある分野では、簡易でも瞬時に診断できることが求められ、ある分野では極めて細かい診断結果が必要になる。年に一度程度の診断でよいという場合もあるだろうし、24時間の常時監視が必要になることもあるかもしれない。こうしたニーズに広く応えられる、他を圧する精度の蓄電池診断をサービスとして提供可能にすることが、私たちのミッションだと考えている。

蓄電池の製造工場や研究機関での利用も

極めて高い診断精度がフィールドを広げる

EC SENSINGが提供する蓄電池の劣化診断/予測サービスが対象とする用途は、電気自動車や大型蓄電システムなどにとどまらず、診断技術の進化とともに拡大していく。例えば、研究開発分野、蓄電池製造での品質管理や検査、自動車/電子機器メーカーにおける受け入れ検査などだ。

 EC SENSINGが提供する蓄電池劣化診断/予測サービスは、主に電池搭載システムのユーザーを対象にしたものになると見込んでいる。ただ、利用分野はそこにはとどまらない。迅速かつ高精度の劣化診断/予測手法は、蓄電池セル、蓄電池用材料、蓄電システムなどの研究開発の現場では欠かせないものになるだろう。さらに、診断技術の進化にともない、蓄電池の製造工場や自動車メーカー、さらには研究開発機関などにも用途は拡大していく可能性が高い。

 例えば、技術解説編で紹介した、蓄電池の品質管理分野への応用だ(AIを利用した診断アルゴリズムを開発)。改良型のアルゴリズムと十分な数量の測定データがあれば、蓄電池メーカーの製造ロットの違い、細かな仕様変更、材料調達先の変更、蓄電池の製造拠点の違いなどによる、わずかな特性差を判別できるようになる可能性が高い。

 これを使えば、蓄電池製造における品質管理や検査、自動車メーカーなど蓄電池ユーザー側が受け入れ検査用にこのサービスを採用することが十分に想定できる。例えば、蓄電池の製造工場であれば、出荷前の全量検査に使えるだろう。EC SENSINGが開発した矩形波インピーダンス法は測定時間が短い。実際の測定時間は、測定する蓄電池の特性に依存するが、長くても10秒程度で終わる。このため、蓄電池の製造工程の最後に検査工程を入れても、TAT(Turn Around Time)に悪影響を与えない。同一品種の蓄電池を多数測定することで、検査精度も格段に向上するだろう。蓄電池を構成する部位の不具合を事前に検知できれば、ユーザー企業に不良品を納入してしまう事態を未然に防止できる。

 自動車/電子機器メーカーでは、蓄電池メーカーから納入される電池を受け入れる際の全量検査に活用できる。この段階で、構成部位の不具合を検知して排除しておけば、製品を市場に投入した後に発煙や発火といった重大事故が発生することを防げる。さらに膨大な検査データは、蓄電池メーカーに対して性能改善や工程改善を要求する際に欠かせない情報となるだろう。

常時監視で導入コストも運用コストも下がる

急速な性能低下を事前察知して対策

EC SENSINGが提供する蓄電池の劣化診断/予測サービスは、EV中古車や中古蓄電池を扱う事業者が蓄電池を選別する工程で利用できる。さらに常時監視といった使い方も可能だ。常時監視を採用すれば、事故リスクを低減できるほか、システム・コストの大幅削減も実現できる。

 EV中古車や中古蓄電池を扱う業者にとっても、EC SENSINGが提供する蓄電池の劣化診断/予測サービスは「選別」という重要な工程を担うという点で、極めて有用なものになるだろう。選別は、例えばEV中古車であれば、「まだまだEVとして使える」「EV用としてはいささか劣化しすぎだがリユースは十分に使用可能」「劣化がひどく、発煙や発火の危険があるためリサイクルに回すべき」などと種別することである。一般に、EVに搭載される蓄電池では、重量に対する充電量や出力(パワー)が重要視される。このため、「まだまだ使える」劣化具合の蓄電池でも、EVでは「使えない」という判断を下されることが多い。ただこうしだ蓄電池は、EVでは使えなくても、重量や体積があまり問題にならない、定置型の大型蓄電システムなどであれば十分に活用できる。

 さらにリユース用をA~Eの5段階に選別する、といったこともあるだろう。中古蓄電池を複数個使ってモジュールを組み立てる場合、安全性などを考慮し、ほぼ同じ特性、劣化程度の蓄電池セルを集めて構成することが望ましい。このためにも選別は必須の工程なのである。

 選別だけでなく、診断システムを使って蓄電池システムを常時監視することで、事故などのリスクを低減するだけでなく、システムのコストを大幅に削減することも可能になる。言うまでもなく、蓄電池の価格は高い。厳格な品質管理のもと製造された高信頼性の未使用製品であればなおさらだろう。もちろん、使用履歴が不明な中古蓄電池や実績がまだ乏しい新興メーカーの製品などを使えば、価格は大きく下げられる。だが、信頼性に不安を残すことになる。つまり、コストとリスクはトレードオフの関係にある。

 この不安に対応する方法として、診断サービスを利用し、蓄電池システムを「常時監視」する方法が有効であると考えている。つまり、製品としてのリスクを監視という手段で回避するのである。

 これができるのは、EC SENSINGの診断サービスが、劣化状況を把握するにとどまらず、近い将来起きる急速な劣化や異常発生を事前に予測できるためである。つまり、常時監視することで、事故や劣化による急速な性能低下が実際に起きる前に、それを察知し、対策を実施することができる。

 EC SENSINGの診断技術を使えば、システム内のどのモジュール、どの蓄電池セルに異常があるかを特定することもできる。現状、蓄電池の危険性に鑑み、「リスク対策として一定期間使用したら全蓄電池を交換」といった運用がなされている例すらあるようだ。だがこれを、常時監視を実施し、異常発生が事前に察知されたら問題の部分のみを改修、といった運用に改めることで、システムの運用コストは大幅に低減できるものだと私たちは考えている。

蓄積する膨大なデータとノウハウを活用

試作委託や技術コンサルも手掛ける

EC SENSINGは早稲田大学逢坂研究室の開発成果である劣化診断/予測技術のみならず、同研究室の蓄電池用材料、電池セル、蓄電システムなどの研究開発成果とノウハウを広く受け継ぐ。これらを生かし、蓄電池用材料の評価、新しい蓄電池の試作や技術コンサルティングなども手掛ける。

 蓄電池の研究開発段階でも、EC SENSINGが提供する劣化診断/予測サービスは大きな効果を発揮するだろう。実際、早稲田大学の逢坂研究室では、この診断技術を新型蓄電池の研究用ツールとして編み出し、活用してきた。新型蓄電池の開発だけでなく、新材料の開発、生産技術の開発にも貢献できる。さらに、EC SENSINGが蓄える「広く世界各所でさまざまな使い方をされている蓄電池に関する診断データ」は、その膨大なデータ自体が蓄電池の開発、品質管理に欠かせないものになるだろう。

 ただ、役割はそこにはとどまらない。EC SENSINGは、早稲田大学逢坂研究室の開発成果である劣化診断/予測技術のみならず、同研究室の「本業」であった新型蓄電池、その関連材料、蓄電システムなどの研究開発成果とノウハウを広く受け継ぐ。これと、劣化診断/予測サービスの展開によって蓄積される膨大な評価データを組み合わせて活用、診断サービスの提供と併行して、新型蓄電池や、関連材料、蓄電システムの研究開発に関する支援事業を手掛けていく予定だ。早稲田大学のスマートエナジーシステム・イノベーションセンターと共同で、蓄電池の試作、評価を受託することも可能である。

早稲田大学 スマートエナジーシステム・イノベーションセンターにある蓄電池セルの試作ライン