病気に罹る前、すなわち「未病の段階」で、いち早く病気の兆候を捉える手法として、近年注目を集めているのがバイオマーカーである。血液などに含まれる特定物質を検出することで異常を検知する技術だ。極めて有効な手段だが、課題が1つある。多くの場合、血液が必要なことである。血液の採取は個人ではできず、医療機関などに行かなければならない。この点、「使い勝手がよく低価格」な方法とはいえない。

この問題を解決できる方法としてEC SENSINGは、早稲田大学の逢坂哲彌研究室が開発した、唾液で検知可能なFET(電界効果トランジスタ)バイオセンサを利用する方法を提案している 注)。唾液ならどこでも個人が簡単に採取でき、検査コストは極めて低くできる。バイオセンサ・チップ自体の製造コストは100円程度に抑えられるので、それを組み込んだ歯ブラシ型バイオセンサでも数万円では提供できそうだ。しかも、バイオセンサ・チップは水で洗うことができ、何度でも繰り返し使える。

このバイオセンシング技術を使えば、これまで困難とされてきた特定物質の測定が可能になる。例えば、血液を使っても測定が難しかったストレスだが、唾液に含まれるコルチゾールなどのストレス・ホルモンをバイオセンサでモニターすることで、ストレス状態を把握できるメドが立ってきた(下掲図)。この方法を使えば、たとえば社員などのストレス状態を適宜把握できるようになり、うつ病などの発症を未然に防げるようになるだろう。

ストレス・ホルモンを検出する仕組みは下掲図に示す通りである。FETセンサ素子のゲート電極上には分子受容体が固定化させてある。その分子受容体がストレス・ホルモンを捕まえると、濃度に応じて電気的な状態が変化しトランジスタの出力信号が変化する。バイオセンサ・チップに複数のFETセンサ素子を集積すれば、複数ストレス・ホルモンの分泌量を同時に測定することもできる。測定感度と精度については、蛍光測定法を用いた装置での測定結果と高い相関性が得られることが確認済みである。

試作チップには、4つのFETセンサ素子を集積しており、そこに唾液を垂らして測定する。
4つのFETがそれぞれ、コルチゾール、α-アミラーゼ、クロモグラニンA、分泌型免疫グロブリンAという4種類のストレス・ホルモンの分泌量測定に対応する。ただし、通常はセンサ部分の一つは参照センサ部として用いるので、この場合は3成分がセンサとして測定可能。測定時間は1分以内。測定データはBluetooth Low Energyを介してスマートフォンに送信する。

注)この技術に関する特許など知的財産権特許は早稲田大学が所有しており、EC SENSINGはその優先実施権を保有している。